2021年にPMBOKガイド第7版が発行されましたが、PMBOK第6版から第7版へは激変していると言っても過言ではなく、プロジェクトマネジメントについて第6版をベースに学習されていた方や第7版発行以前にPMPを取得された方にとっては、かなり衝撃を受ける内容になっています。
著者も第6版を使ってPMBOKを学習し2020年にPMPを取得しました。
以降、第6版の内容をプロジェクトマネジメントの基礎として活用してきましたが、PMP更新を機に第7版を学習しその変化に大きな衝撃を受けました。
本記事では、PMBOK第6版から第7版へは何がどのように変わったのか、変更点ついて分かりやすく解説します。
2025年中にPMBOK第8版のリリースも予定されていますので、第7版における変更点についてまだご確認されていない方は必見となります。
【この記事を読んでわかる事】
- PMBOKとは
- PMBOK第6版と第7版の違い
~ プロセスベースから原理・原則ベースへ ~
・【第6版】10の知識エリア
・【第6版】5のプロセス群
・【第7版】12の原理・原則
・【第7版】8のパフォーマンス領域 - テーラリングとは
PMP資格については、以下の記事をご参考下さい。
■PMBOKとは
PMBOK(ピンボック)とは「the Project Management Body of Knowledge」の略でプロジェクトマネジメントに関する技法やノウハウが体系的にまとめられた「プロジェクトマネジメントの知識体系」のことです。
アメリカの非営利団体PMI(Project Management Institute)が「PMBOKガイド」としてガイドブックを発行しています。
PMBOKは1987年に最初に公表され、1996年に「PMBOKガイド」として初版が発行されました。
内容は4年に1回程度の頻度で更新され、最新のPMBOKガイドは第7版(2021年発行)となっています。
今ではプロジェクトマネジメントのデファクトスタンダード(事実上の標準)として世界各国で活用されています。
PMBOKは過去のプロジェクトマネジメントのベストプラクティスから導かれた、“現状”考え得るプロジェクトマネジメント体系の集大成であるため、時を経るに従い当然に更新されていきます。
1996年 初版
2000年 第2版
2004年 第3版
2008年 第4版
2012年 第5版
2017年 第6版
2021年 第7版
2025年 第8版予定

■PMBOK第6版と第7版の違い
PMBOK第6版と第7版の主要な変更点は大きく3つあります。
以降、順番に解説していきます。
- プロセスベースから原理・原則ベースへ
・第6版「10の知識エリア」⇒第7版「8のプロジェクト・パフォーマンス領域」
・第6版「5のプロセス群」⇒第7版「12の原理・原則」 - テーラリング専用の章が設けられる
- 「モデル、方法、作成物」とデジタルコンテンツの活用
・第6版「ツールと技法」と第7版「モデル、方法、作成物」
■プロセスベースから原理・原則ベースへ
最も大きな変更点であり、最も衝撃を受けるのはここです。
PMBOK第6版では「10の知識エリア」と「5のプロセス群(49のプロセス)」として体系立てられていたものが、第7版では「12の原理・原則」と「8のプロジェクト・パフォーマンス領域」という整理の仕方に変革しています。
現在のプロジェクトは、アジャイル型を筆頭に様々なプロジェクトの形態が出現しており、これまで(第6版まで)基礎としていたウォーターフォール型のプロジェクトの説明では表現しきれなくなってきていることに起因しています。
従って、第6版までのようにプロセスをきっちり固定化しプロセスに応じたハウツーを示すのではなく、原理・原則をしっかり定めた上でパフォーマンスを発揮できる領域を定め、それぞれの領域においてプロジェクトマネージャの具体的な活動や振舞い方を示すことでどのようなプロジェクトの形態でも柔軟に対応できるような整理の仕方をしていると言えます。
PMBOK 第6版 「10の知識エリア」と「5のプロセス群(49のプロセス)」

PMBOK 第7版 「12の原理・原則」と「8のプロジェクト・パフォーマンス領域」

■プロジェクトマネジメント体系
PMBOK第6版の「10の知識エリア」は、第7版では「8のプロジェクト・パフォーマンス領域」に対応します。
また、第6版の「5のプロセス群」は、第7版では「12の原理・原則」に対応するとされています。

PMBOK第6版の「プロセス」と第7版の「原理・原則」が対応することに少し違和感を覚えますが、第6版では「10の知識エリア」の活動を”いつ行うか”が「プロセス」として定義されているのに対して、第7版では「8のプロジェクト・パフォーマンス領域」の活動に対して、「原理・原則」を”常に適用する”、という建付けになっており、プロジェクトの形態に対する柔軟性を確保しているという意味において腑に落ちます。
PMBOK 第6版 10の知識エリアと5のプロセス群の対応

PMBOK 第7版 8のプロジェクト・パフォーマンス領域と12の原理・原則の対応

【PMBOK 第6版】10の知識エリア
PMBOK第6版では、プロジェクトマネジメントを実施する際に求められる知識を10の領域に分け、10の知識エリアとして定義しています。
統合マネジメント
プロジェクト全体の方針を決めて、目標やプロセスを調整したり管理したりするエリアです。他の9つの知識エリアを統合し、全体をマネジメントする位置づけです。
スコープマネジメント
プロジェクトを実施する範囲を定め、プロジェクトを成功させるために必要な作成物とタスクを定義して、目標を達成する確率を高めるために行うエリアです。
スケジュールマネジメント
プロジェクト成功させるためのスケジュール管理や生産性を向上させるために時間の使い方を管理するエリアです。
コストマネジメント
プロジェクトにかかる費用を適切に見積り・予算を設定して管理するエリアです。
品質マネジメント
プロジェクトのプロセスやプロジェクトの作成物における品質の管理を実施するエリアです。
資源マネジメント
プロジェクトを成功させるために人材や物的資源の調達および管理を実施して、プロジェクトを遂行できるチーム編成を行うエリアです。
コミュニケーションマネジメント
ステークホルダーとのスムーズなコミュニケーションを行うために管理するエリアです。
リスクマネジメント
プロジェクトを進めていく中で発生する可能性があるリスクを管理するエリアです。
調達マネジメント
プロジェクト業務を進めていく中で必要なサービスやプロダクトの調達を管理するエリアです。
ステークホルダーマネジメント
利害関係者にとって必要な情報を収集して、保管・伝達を管理するエリアです。
【PMBOK 第6版】5のプロセス群
PMBOK第6版では、プロジェクト開始から終結までの流れを5つのプロセス群に分類し、一つひとつ定義付けています。
立上げプロセス
プロジェクトを正式に開始する前に承認を得るプロセスです。
目的や目標、予算、期待される成果を明確にし、プロジェクト憲章を作成します。
計画プロセス
プロジェクトを成功に導く上で必要な計画を立てるプロセスです。
目標の明確化と行動計画の策定を行い、プロジェクトの進行がスムーズになる基盤を整えます。
実行プロセス
立案された計画に基づき、必要な人材や資源を調達し、プロジェクトを実際に進めるプロセスです。
監視・コントロールプロセス
計画通りに進んでいるかを常にチェックするプロセスです。
計画と実際の進捗に差異が発生した場合、迅速に対応策を講じて修正を行います。
終結プロセス
プロジェクトや工程の完了を正式に確認するプロセスです。
すべてのタスクが適切に完了しているかを検証します。
【PMBOK 第7版】12の原理・原則
PMBOK第7版では、プロジェクトに関わる方々の振る舞いへの指針を12の原理・原則として提供しています。ルールではなく、あくまでも指針です。
スチュワードシップ
勤勉で、敬意を払い、面倒見の良いスチュワードであることです。
請け負った仕事を誠実かつ責任を持って行います。
チーム
協働的なプロジェクト・チーム環境を構築することです。
お互いに尊重しあえるチームを作ります。
ステークホルダー
ステークホルダーと効果的に関わることです。
利害関係者と連携し、関心やニーズを汲み取ります。
価値
価値に焦点を当てることです。
価値を重視します。
システム思考
システムの相互作用を認識し、評価し、対応することです。
プロジェクト全体をシステムと捉え、各要素がいかに影響し合っているのかを考えます。
リーダーシップ
リーダーシップを発揮することです。
マネージャーに留まらず、プレイヤーもリーダーシップを持ち合わせた方が、プロジェクトとして円滑に進行します。
テーラリング
状況に応じてテーラリングすることです。
目標・環境・状況に応じて、カスタマイズしたり、組み合わせたりして組織内外の資産を活用します。
テーラリングについては後述します。
品質
プロセスと成果物に品質を組み込むことです。
プロセスと結果において品質を重視します。
複雑さ
複雑さに対処することです。
複雑性の軽減に向けて現状を分析・構造化し、シンプルでわかりやすい構造に落とし込みます。
リスク
リスク対応を最適化することです。
リスクを認識し、適切に対処します。
適応性と回復力
適応力と回復力を持つことです。
変化に対応する力、挫折・失敗から迅速に回復する力を備えます。
チェンジ
想定される未来の状態を達成するために変革できるようにすることです。
現状に対して良い変化・変革を起こします。
【PMBOK 第7版】8のパフォーマンス領域
PMBOK第7版では、12の原理原則に基づいた8つの活動を8のパフォーマンス領域として定義しています。
ステークホルダー
利害関係者に対する活動です。
ステークホルダーに関連した活動と機能に対処します。
チーム
チームに対するリーダーシップやマネジメントに関する活動です。
ビジネス成果を実現するプロジェクトの成果物を生み出す責任を負う人に関連付けられた活動と機能に対処します。
開発アプローチとライフサイクル
成果物に相応しい開発手法や、成果物の提供リズム・サイクルに関する活動です。
プロジェクトの開発アプローチ、ケイデンス、およびライフサイクル・フェーズに関連する活動と機能に対処します。
計画
成果を生み出す上で求められる組織化や調整機能に関する活動です。
初期、継続中、進化中のプロジェクト組織に関連した活動と機能、およびプロジェクトの成果物と成果を提供するために必要となる調整を扱います。
プロジェクト作業
効果的・効率的プロセスに基づく作業進行に関する活動です。
プロジェクト・プロセスの確立、物的資源のマネジメント、学習環境の強化に関する活動と機能を扱います。
デリバリー
ステークホルダーに対する価値提供に関する活動です。
プロジェクトが達成を目指したスコープと品質の提供に関連する活動と機能を扱います。
測定
パフォーマンスの測定に関する活動です。
プロジェクトのパフォーマンスを評価し、受入れ可能なパフォーマンスを維持するための適切な行動を取ることに関連する活動と機能に対応します。
不確かさ
リスクに向けた対処に関する活動です。
リスクと不確かさに関連する活動と機能に対応します。
■テーラリング専用の章が設けられた
テーラリング(tailoring)とは、洋服を既製品ではなくその人に合った服に採寸し仕立てることであり、プロジェクトマネジメントにおいては、プロジェクトや目の前のタスクに対するマネジメントのアプローチ、ガバナンス、プロセスが、組織や組織の文化・手続き、環境に対して、より適合するように選択的にプロセスや手段を適用・変化させていくことです。
要するに、PMBOKで示す方法論をプロジェクトの状況に、より適合するように適応させていく活動です。
テーラリングは、第6版ではプロジェクト・チームがプロジェクトマネジメントへのアプローチをテーラリングする方法を考えるために役立つ考慮事項として各「知識エリア」のはじめに補足的に含まれていますが、第7版ではテーラリング専用の章としてまとめられ拡張されています。
■「モデル」、「方法」、「作成物」とデジタルコンテンツの活用
PMBOK第6版では、プロジェクトマネジメントで使用するツールと技法を、いつ(どのプロセス群で)、どのように使用するか(How to)まで記載されていましたが、第7版ではモデル、方法、作成物を紹介するにとどまり、How toについては、web「PMI STANDARD+ デジタルコンテンツプラットフォーム」で公開される形式となりました。
これによりPMBOKガイドのページ数自体も第6版では約770ページのところ第7版では約370ページと半分以下に減っています。
「PMI STANDARD+ デジタルコンテンツプラットフォーム」では、随時更新される知識体系に対してリアルタイムのアクセスが可能であり、かつテンプレートなどをダウンロードすることが出来るようになっています。
なお、「PMI STANDARD+ デジタルコンテンツプラットフォーム」へのアクセスは有料(PMI会員登録 or サブスクリプション)です。
また注意点としては、2025年2月現在、「PMI STANDARD+ デジタルコンテンツプラットフォーム」はまだ英語のみのコンテンツとなっています。
PMI STANDARD+ デジタルコンテンツプラットフォーム(サンプル画像)







■PMBOK 第6版・第7版 目次構成の比較
PMBOK 第6版と第7版の目次構成の違いについてまとめておきます。
前述のとおり、PMBOK第6版では「10の知識エリア」と「5のプロセス群(49のプロセス)」として体系立てられていたものが、第7版では「12の原理・原則」と「8のプロジェクト・パフォーマンス領域」という整理の仕方に変革しています。

また、著者もよく参考にさせて頂いていますが、PMBOK日本語版の翻訳と監訳に携わる鈴木氏が、従来の版から大幅に変わった第7版の内容を具体的に解説している書籍をご紹介します。

以下、全体をさらっと網羅できる教育研修やアジャイル手法、PMBOK7版の改訂点に関する講座をご紹介します。



■まとめ
いかがでしたでしょうか。
最後にPMBOK第6版と第7版の違いについてまとめておきます。
●PMBOKとは
PMBOKとは、プロジェクトマネジメントに関する技法やノウハウが体系的にまとめられた「プロジェクトマネジメントの知識体系」のことです。
●PMBOK第6版と第7版の違い
- プロセスベースから原理・原則ベースへ
第6版までのようにプロセスをきっちり固定化しプロセスに応じたハウツーを示すのではなく、原理・原則をしっかり定めた上でパフォーマンスを発揮できる領域を定め、それぞれの領域においてプロジェクトマネージャの具体的な活動や振舞い方を示すことで様々なプロジェクトの形態に柔軟に対応できるような整理の仕方に変革しています。 - テーラリング専用の章が設けられる
第7版ではテーラリング専用の章としてまとめられ内容が拡張しています。 - 「モデル、方法、作成物」とデジタルコンテンツの活用
第6版では、プロジェクトマネジメントで使用するツールと技法を、いつ(どのプロセス群で)、どのように使用するか(How to)まで記載されていたが、第7版ではHow toについては、web「PMI STANDARD+ デジタルコンテンツプラットフォーム」で公開される形式になっています。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
PMBOKの学習をとおして取得したPMP資格は、著者が取得してきた資格の中で仕事上最も役に立つ資格のひとつです。少しでも皆さまのお役に立てたなら幸いです。