PMP(Project Management Professional)資格は、最新のPMBOKガイド(Guide to the Project Management Body of Knowledge)に基づいているため、現在最新であるPMBOKガイド第7版を学習することがPMP試験合格への最短距離だと考える方も多いかと思いますが、実のところそうではありません。
PMP試験合格を目的とした場合、PMBOKガイド第7版は『重要なテキストのひとつ』ではあるものの、それだけを使っていても効率的な学習は難しいと言われています。
2025年中にPMBOK第8版のリリースも予定されており、試験内容や傾向が変化することが予想できますので、これまでPMBOK第7版をベースに学習されてきた方は、出来る限り効率の良い学習をして第8版リリース前に合格を目指したいところでしょう。
本記事では、PMP資格はPMBOKガイド第7版を学習するだけでは合格は困難である、という件について理由を解説します。
またどのような学習方法が適しているのかについてもご紹介します。
■PMBOKガイド第7版を学習するだけではPMP資格合格が困難な理由3選
以下の3つの理由が挙げられます。
順番に解説していきます。
- PMI(Project Management Institute)が公開している試験範囲には、PMBOK第7版には出て来ない内容が含まれている
- PMBOK第7版での大幅な改訂
- PMBOK監訳の鈴木安而(すずきやすじ)氏のコメント
■【理由1】PMIが公開している試験範囲には、PMBOK第7版には出て来ない内容が含まれている
PMPの試験範囲・内容は、ECO(Examination Content Outline)としてPMIが公開しています。
このECOによると、試験範囲、出題割合は以下の表のとおりとなっています。
しかし、実は、試験範囲となっている『コンプライアンス(倫理規定)』や『ガバナンス(組織統治)』に関する内容はPMBOK第7版にはほとんど掲載されていません。
つまりこの部分に関しては、PMBOKだけを学習していても”PMP試験の問題を解くことが出来ない”、ということになります。
領域 | テスト項目の割合 | |
---|---|---|
1 | 人 | 42% |
2 | プロセス | 50% |
3 | ビジネス環境 | 8% |
合計 | 100% |
人(42%) | |
---|---|
1 | コンフリクトを管理する |
2 | チームをリードする |
3 | チームのパフォーマンスをサポートする |
4 | チーム・メンバーとステークホルダーに権限を与える |
5 | チーム・メンバー/ステークホルダーを適切にトレーニングする |
6 | チームを形成する |
7 | チームにとっての障害や障壁、阻害要因に対処して、除去する |
8 | プロジェクトの合意に向けて交渉する |
9 | ステークホルダーと協力する |
10 | 共通理解を構築する |
11 | バーチャル・チームを関与させてサポートする |
12 | チームの行動規範を定義する |
13 | 関係するステークホルダーにメンタリングを行う |
14 | 感情的知性の適用を通してチームのパフォーマンスを向上させる |
プロセス(50%) | |
---|---|
1 | 事業価値の提供に必要な緊急度でプロジェクトを実行する |
2 | コミュニケーションを管理する |
3 | リスクを評価して管理する |
4 | ステークホルダーを関与させる |
5 | 予算と資源を計画し、管理する |
6 | スケジュールを計画し、管理する |
7 | プロダクト/成果物の品質について計画し、管理する |
8 | スコープを計画し、管理する |
9 | プロジェクト計画アクティビティを統合する |
10 | プロジェクトの変更を管理する |
11 | 調達を計画し、管理する |
12 | プロジェクト文書類を管理する |
13 | 適切なプロジェクト方法論/手法と実務慣行を決定する |
14 | プロジェクト・ガバナンス構造を確立する |
15 | プロジェクトの課題を管理する |
16 | 知識を伝達してプロジェクトの継続性を確保する |
17 | プロジェクト/フェーズの終結または移管を計画し、管理する |
ビジネス環境(8%) | |
---|---|
1 | プロジェクトのコンプライアンスを計画し、管理する |
2 | プロジェクトのベネフィットと価値を評価し、実現する |
3 | 外部ビジネス環境の変化によるスコープへの影響を評価し、対処する |
4 | 組織の変更をサポートする |
■【理由2】PMBOK第7版での大幅な改訂
PMBOK第7版での最大の変化は、プロジェクトマネジメント体系がプロセスベース(ウォーターフォール型)から原理・原則ベースに変わったことです。
PMBOK第6版では、プロジェクトマネジメントで使用するツールと技法を、いつ(どのプロセス群で)、どのように使用するか(How to)まで記載されていました(プロセスベース)が、第7版では原理・原則ベースに変革したことにより、いつどのように使用するかについては内容がごっそり削られています。
これによりPMBOKガイドのページ数自体も第6版では約770ページのところ第7版では約370ページと半分以下に減っています。
一方で、PMP試験としてはウォーターフォール型(予測型)も50%出題されるとPMIから公表されています。
試験の約半分は予測型プロジェクトマネジメント・アプローチに関するもので、残り半分はアジャイル・アプローチまたはハイブリッド・アプローチに関するものです。
出典:PMI公式サイト(ECO)
ここがPMBOK第7版の内容とPMP試験範囲が剥離しているポイントになります。
なお、PMBOK第6版から第7版への変更点については、以下の記事をご参考下さい。
■【理由3】PMBOK日本語版監訳の鈴木安而(すずきやすじ)氏のコメント
『PMBOK第7版だけ勉強してもPMP試験合格は難しい』
このことについて、PMBOK第7版の日本語版の監訳に携われている鈴木安而(すずきやすじ)氏がプロジェクトマネジメント専門チャンネルのイトーダ氏のインタビュー動画の中で明言されています。
理由としては前述しました2つの理由が主となっていますが、非常に説得力があります。
PMP試験合格に向けた対策も語られており役立つ内容でしたのでご紹介しておきます。
イトーダ氏のインタビュー動画の中で、試験対策としては以下の2点が語られています。
実は、著者は、鈴木氏が代表を務めるPMアソシエイツが提供するプロジェクトマネジメント講座を受講したことがあり、その際、講師を務められていた鈴木氏に直接お会いしたことがあります。
2009年のことであり、著者がまだ20代でPMPを受験することさえ頭の片隅にもなかったときの事ですが、『プロジェクトマネジメントの真髄は、対立する要求事項間の最適バランスを取る事にある』という金言は今でも心に深く刻まれており、マネジメントを行う際には思い出し、また若手の育成の際には何かと引用させて頂いています。
『プロジェクトマネジメントの真髄は、対立する要求事項間の最適バランスを取る事にある』
【著者が受講した講座】
講座名:プロジェクト・マネジャー養成講座 基礎編(2日間)
PMBOK-Basic-2009
PMBOK第4版(2008年度版)準拠
提供:PMアソシエイツ株式会社
講師:鈴木安而 氏
また意図せずですが、著者がPMP試験対策に使用した問題集(PMPパーフェクトマスター(評言社))も鈴木氏著のものでした。
著者は2020年にPMP試験に一発合格しています。
PMPパーフェクトマスターは、PMBOK第6版準拠のものですが今でも時折仕事の参考に読み返すときがありPMP試験にとどまらずプロジェクトマネジメントのテキストとしても優れています。
以下、鈴木氏の著書をご紹介します。

■PMP試験の学習方法
PMBOK第7版だけの学習では効果が限定的です。
PMBOK第7版は、(重要な)参考テキストのひとつとして捉え、別途、試験の合格を目的とした学習をしっかりと行うことをお勧めします。
PMPは独学で合格可能です。著者は独学で合格しています。
鈴木氏が言及された前述の試験対策に加えて、資格対策講座、問題集、模擬試験を活用したオーソドックスな学習方法で合格可能です。

また、以下に、試験対策としてお勧めの講座をご紹介します。



なお、試験対策については以下の記事もご参考下さい。
■まとめ
いかがでしたでしょうか。
最後に、PMBOKガイド第7版を学習するだけでは合格は困難な理由およびPMP試験の学習方法についてまとめておきます。
●PMBOKガイド第7版を学習するだけでは合格は困難な理由3選
- PMIが公開している試験範囲には、PMBOK第7版には出て来ない内容が含まれている
PMBOK第7版には『コンプライアンス(倫理規定)』や『ガバナンス』に関する内容はほとんど掲載されていないため、PMBOKだけを学習していてもPMP試験の問題を解くことが難しい。 - PMBOK第7版での大幅な改訂
PMBOK第7版では原理・原則ベースに変革したことにより、いつどのように使用するかについては内容がごっそり削られている一方で、PMP試験としては、ウォーターフォール型(予測型)も50%出題される。 - PMBOK監訳の鈴木安而(すずきやすじ)氏のコメント
このことについて、PMBOK第7版の日本語版の監訳に携われている鈴木安而(すずきやすじ)氏が『PMBOK第7版だけ勉強してもPMP試験合格は難しい』ということを明言されている。
●PMP試験の学習方法
- PMBOKガイド第7版は、(重要な)参考テキストのひとつとして考える
- 問題集、講座、模擬試験を活用したオーソドックスな学習方法でしっかりと試験対策をする
- PMP試験問題はアメリカで作成されているので日本のビジネス文化、習慣だけで試験問題を解こうとしてもうまくいかない。
- 試験問題は用語集に準拠しているため、PMBOKガイドの後ろの用語集を勉強するだけでもかなり力がつく。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
PMBOKの学習をとおして取得したPMP資格は、著者が取得してきた資格の中で仕事上最も役に立つ資格のひとつです。少しでも皆さまのお役に立てたなら幸いです。